2008年02月19日

原爆症認定の「新しい審査のイメージ」について

 
広島共立病院院長 青木 克明

 原爆症集団訴訟は国の6連敗のあと安倍首相が認定制度の見直しを指示し1月17日に厚労省は「新しい審査のイメージ」を発表しました。被爆者の関心は高く、報道ではこの1〜2ヶ月の認定申請は例年の3倍に増えているそうです。

 広島共立病院では昨年度は20件、今年度はすでに31件の申請をおこなっています。審査結果は昨年度分が認定3、却下4、結果待ち13、今年度分の回答はありません。先日、3才のとき爆心900mで被爆して前立腺癌になった方に原爆症認定の通知がとどきました。確実に認定されるケースですが申請から1年4ヶ月もたっていました。
新しい審査のイメージでは自然界の放射線量(1ミリシーベルト)を越える放射線を受けたと考えられるもの、具体的には、爆心3,5km前後での被爆、100時間以内に爆心付近に入市したもの、その後1週間程度滞在したものについては積極的に認定するとしています。

 がんは従来の原因確率表にあてはめて10%以上あれば自動認定され、10%以下でも被爆条件を満たせば認定、それ以外は個別に審査されます。
放射線起因性のある心筋梗塞と放射線白内障は3,5km、100時間、1週間の要件を満たせば認定され、それ以外は個別に審査されます。その他の疾患は従来どおり個別に審査されます。

 がんに限っては門戸が大きくなりましたが、非がん疾患に対する門戸は相変わらず狭いままです。広島地裁で勝訴した41人を新しい「審査のイメージ」にあてはめてみると22人は認定されますが残りの19人は個別の審査にまわされます。

 心筋梗塞は癌以外で増加している病気の中ではもっとも重篤なものであり、新たに原爆症に加えられました。ただし、「放射線起因性」が要件です。放影研では2グレイをこえると相関が強くなるとしています。また申請には医師の意見書が必要ですが、昨年1月から「放射線に起因すると考える場合にはその根拠を記入してください。」という注記が新たに付きました。心筋梗塞のハードルはかなり高いものになりそうです。

 被爆関係予算は被爆者の高齢化とともに増加をしてきましたが、2001年をピークに減少をしています。今年度は1536億円で前年に比べて30億の減少です。ところが来年度予算は今年度と全く同額の1536億円が計上されました。医療特別手当は41億の増額となり新たに1800人の認定が可能となりますが、その原資は被爆者の死亡による医療費減少20億と健康管理手当などの減少20億で賄われるのです。「新しい審査のイメージ」は被爆者の死亡による自然減41億に合せて作られたと推察されます。

 日本被団協と原告、弁護団は新しいイメージの提示をうけて3つの要求を発表しました。原爆症認定疾患に血液疾患、肝臓病、肺繊維症、甲状腺機能障害、外傷後遺症、小頭症を加え、これらの病気の治療が必要な場合はすべての被爆者を対象に原爆症と認定すること。審査をおこなう医療分科会の委員の半分は被爆者団体が推薦する人をあてること。控訴を取り下げて原告全員救済をして全ての訴訟を解決することを求めており、2月18日より厚労省との協議が開始されました。

 原告の14%がすでに亡くなっており、これ以上裁判を長引かせてはなりません。薬害肝炎では原告の訴えが世論を背景に国をうごかして線引きのない和解にこぎつけました。

 広島の原告団は2月2日に総会を開催して全員団結してたたかいぬく決議をしています。
一刻もはやい裁判の解決と認定制度の抜本的な改革が望まれます。
posted by スタッフ at 15:17| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月15日

被爆二世への援護拡大を!

 院長   青木 克明

 当院では日曜検診を年に3回実施するなど被爆二世健診を重視してきています。昨年度の受診者は786名、広島市の12%で委託医療機関では第1位です。しかし、この5年間で受診者は20%減少しています。広島市全体では8663件から6567件、24%の減少です。

 その原因は検診の内容が76年に制定された被爆者一般検診と同じく貧血と肝機能に限定されたお粗末なものだからです。医師の判断で精密検査が追加できるため、当院では全員に血糖、コレステロール、尿酸、35才以上に心電図をおこなっています。また40才以上の方には老人保健法による癌健診をおすすめしていますが、自己負担があるため、受けられる方は女性では肺癌31% 大腸癌19% 乳癌14%などに止まり男性はさらに低率です。

 被爆二世が何人いるかは不明ですが、二世健診受診件数は全国集計されており、2002年度18,960件、2006年度17547件です。広島、長崎では減少していますが、その他の合計は増加しています。なかでも東京都は658件から963件に増加しているのが目立ちます。

 東京都では独自にふたつの被爆二世援護策を行っています。ひとつは各種癌健診を被爆者と同様に無料で実施していることです。被爆二世癌健診の受診延べ数は06年度には2690件です。1人当たり2,8個の癌健診を受けていることになります。被爆二世も癌年齢に入ってきており無料で癌健診が受けられることが二世検診受診者増加の要因と考えられます。

 もうひとつの援護は医療費自己負担分補助です。被爆者健康管理手当の対象となる11の疾患での治療に対して要件をみたせば支給されます。受給者は97年度が107人でしたが、05年度は345人に増加しています。

 東京の被爆二世援護は1976年革新都政の高福祉によって実現し、年間7000万円の費用が必要とのことです。財政の豊富な東京都ならばの上乗せ保障かも知れませんが、全国の被爆二世にも東京並みの援護を実現したいものです。
 
 被爆者が国を訴える裁判により原爆症認定制度、在外被爆者対応が改善されつつあります。次の課題は被爆二世への援護の拡大ではないでしょうか。
 
posted by スタッフ at 14:21| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月07日

原爆症相談外来を開設

 院長   青木 克明

原爆症認定申請を却下された被爆者による集団訴訟は原告の勝訴があいつぎ、昨年8月に安倍首相が認定制度の見直しを表明したのを受けて、厚労省の「原爆症認定の在り方の関する検討会」と、被爆2世議員も加わった与党プロジェクトがそれぞれ改革案を出しました。

「厚労省検討会報告」は従来の制度をわずかに手直ししたもので、被爆者の望みとは大きな格差があります。検討会の委員として招聘され独自の提案をされた鎌田七男医師は長らく被爆者医療の第一線に立ってこられている方ですが、検討会の審議を「聴きおくのみ、無視する、変化することに抵抗するなど常識の通じない異文化そのものでした」と語っています。

一方 与党プロジェクト案は被爆者の主張にかなり近いものです。「完成されたものではなく、基本線として提示し、今後拡大の検討を続ける」としており、この案が国の制度として採用されることが望まれます。

来年度予算では原爆症認定患者に対する医療特別手当(1人年間約165万円)を36億円1800人分増額することとなりました。国の被爆者対策予算は2001年度の1658億円をピークに減少しており、今年度は1535億円で昨年度より30億円減少しています。被爆者の死亡によって健康管理手当が23億、医療費が19億、健診費用が3億減少しているためです。医療特別手当増額は被爆者の死亡にともなう予算の減少分を回したものにすぎないのです。

厚生労働省HPによると、今年度前半に329件の原爆症認定審査をおこない65件が認定され 認定率は19.8%でした。2倍にして1年分と仮定すると658件審査して130件認定となります。これを松谷勝訴後の7年間で比較すると審査件数は5位、認定数と認定率は6位という低い水準にあります。当院から昨年度は20件の申請をしましたが、回答があったのはわずか4件です。13ヶ月たってから追加の資料提出をもとめてきたケースもあります。高齢の被爆者を対象とする審査にこのように長期間かかるようでは、国の機関としての役割を果たしていません。

 また7月以降、従来は「却下」とされていた事例が「原爆症認定の在り方を検討することとなったため、結論が得られた際に再度検討を行うことが適当とされたもの」として「再検討」の答申に分類され始めました。「再検討」とされた事例が審査制度の改革によって「敗者復活戦」で勝ち上がってくることを実現しなくてはなりません。
 
posted by スタッフ at 08:59| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月10日

厚生労働白書を読む 〜医師の最多年齢は50才

 病院勤務医の1週間の勤務時間は平均63時間に及び、当直の翌日は通常勤務が多く、処遇や社会的評価の低下、訴訟のリスクなどから燃え尽きるように退職していく中堅層の医師が増えているとの指摘がある。分娩を実施する施設は10年間に26,5%減少、小児科を標榜する病院は97年から2005年の間に約600減少している。しかし、医師数は毎年3500人から4000人程度増加しており、医師が足りないのではなく地域格差、診療科格差が問題であるとしています。

 2004年の医師の年齢階級別分布図をみると、24歳から98歳に及んでいます。77歳を中心とした小山は戦争末期に軍医を大量養成したためと思われます。58歳から下が急激に増加して、最も多い年齢は46歳で、これより若い年齢は緩やかに減少しています。4年後の現在は50歳がピークということになります。

 昭和48年に1県1医大構想がだされ、昭和56年には医学部定員がかつての6000人から8360人に増加したが、昭和58年には10万人当たり150人の目標が達成され、これ以上医師を増やすと医療費が増大して財政破綻をきたすとの「医療費亡国論」がだされて、平成5年には医学部定員は7,7%削減されて7725人となったために、昭和32年生まれをピークとする年齢分布となっているのです。

 毎年3500人から4000人増加しているとはいっても増えているのは50歳以上の部分であり、当直や長時間手術などの過酷な仕事に耐えられる青年医師は増えてはいないのです。また女性医師の割合が増加しており、国家試験合格者の3割を越えています。女性医師の7割は男性医師と結婚しているそうで、若い医師の半分近くは医師同士で家庭を築いているわけです。男性が医師の大部分を占めていた時代に比べて出産、育児といった家庭生活と当直、緊急呼び出しなどの時間外労働の両立がより困難になっており、急性期病院での中堅医師退職の一因となっていると思われます。
 
 医師の負担軽減のために、こどもの院内夜間延長保育をおこなったり、朝食、夕食を提供している病院もあります。しかし、個々の病院の援助には限界があります。国の責任で医師が働き続けられる環境の整備が必要です。

 OECD加盟30か国の人口1000人あたりの医師数は平均3,1人です。日本は2,0人で下から4番目ですが、今の増加率ではいずれ最下位になると予想されています。

 医師不足は偏在によるものではなく、絶対数の不足です。医学部定員を増やして、多くの若い医師を世に送り出さない限り今日の医療危機を救う手立てはないと思います。
posted by スタッフ at 17:45| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月06日

厚生労働白書を読む 〜裏表紙はメタボ退治

 厚生労働白書平成19年度版を読んでみました。舛添大臣は「生活習慣病予防や長期入院の是正などにより、国民のQOLの維持・向上を確保しつつ、計画的に医療費の適正化をすすめる」とのべています。裏表紙にはメタボリックシンドロームと判定された人が「運動と食事でバランスよく、無理なく内臓脂肪を減らすため」の表が印刷されています。

 2004年度の死因は悪性新生物が31.1% 心臓病、脳血管疾患などその他の生活習慣病が29.8%ですが、かかった医療費は悪性新生物が2.6兆円%なのに対して高血圧、糖尿病などの生活習慣病は7.8兆円と約3倍です。不適切な食生活、運動不足から糖尿病、高血圧、高脂血症を発症し、心筋梗塞や脳卒中に重症化して、最後は要介護状態になり、医療費を増加させているので、生活習慣の改善によって老人医療費を適正化できるとしています。

 1人当たりの老人医療費と様々な項目との相関が類似した都道府県を10のグループにわけています。1人当たりの老人医療費が高いのは北海道、福岡、長崎、大阪、広島などで、これらは病床数が多い、平均在院日数が長い、受療率が高い、健診受診率が低い、高齢者就業率が低い傾向にあります。一方、1人当たりの老人医療費が低いのは山形、新潟、山梨、長野、岩手、などでこれらは、病床数は多くない、平均在院日数は短い、受療率は低い、健診受診率が高い、高齢者就業率が高い、在宅死亡が多いといった特色があり、医療費適正化のモデルを提供しているとしています。

 メタボリックシンドロームリスク保有者の割合は沖縄が男女とも1位ですが、石川、京都グループは老人医療費が高いにもかかわらずメタボの割合は男女とも最下位です。広島、大阪グループは老人医療費は高いのですが、メタボの割合は男女とも10グループ中8位です。メタボ退治が医療費削減に結びつくのか疑問です。

 来年度から特定健診・特定保健指導が始まります。医療保険者に健診の実施が義務づけられ、後期高齢者支援金の加算・減算が行われます。対象者は40から74歳の医療保険加入者5600万人。保健指導の対象となるのはその34%に当たる1960万人とされています。しかし、実施の体制は進んでいません。健診データーの電子化、保健指導の煩雑さなどがネックとなっています。広島県医師会では健診については受入窓口となって会員を援助するが、保健指導についてはノータッチとしています。保健指導は電話やメイルでもよいため、在京の業者が管理栄養士を多量に採用して全国の健診施設と契約して事業をすすめようとしているとの話も聴きます。

 メタボリックシンドロームの原因としては、長時間労働による不適切な食生活、運動環境の不備などもあげられます。長時間労働、非正規労働の削減といった根本的な労働条件改善、遊歩道や温水プールなど運動環境の整備、禁煙推進などをあわせて行わないとメタボ退治の成果は上がらないのではないでしょうか。

 当院は「地域まるごと健康づくり」をかかげる医療生協の病院として保健活動に力を注いできました。政府管掌健康保険の指定健診機関として健診を実施してきており、保健指導は「医療生協の健康習慣」を実践してきております。こうした実績を生かして来年からの特定健診・保健指導に対応できるよう、対策チームをつくり、担当の保健師、管理栄養士を新たに配置して準備を進めています。
posted by スタッフ at 09:22| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月20日

マイケル・ムーアの「シッコ」を観て

院長   青木 克明


 社会派監督マイケル・ムーアの話題の映画「シッコ」を観ました。米国の格差社会と民間保険企業が支配する医療の実態が良くわかる内容でした。

 ―失業した配管工の父が出稼ぎに行くことなり、泣いている息子に「パパはどこにいくの?」と聞くと「イラク」と答えた。高額の保険料を支払って民間医療保険に加入していても、蕁麻疹の既往歴を申告しなかったことを理由に治療費の支払を拒否される。電気ノコで中指、薬指を切断した男性が指再接着の手術を受けることとなったが、中指はあまりに高額であったため、「ロマンチックな彼」は薬指1本を選んだ。それでも150万円ほどかかった。―

 医療費の払えなくなった入院患者を捨てる病院。つぎつぎに米国医療のおぞましい姿が突きつけられます。
 9.11同時多発テロの際、貿易センタービルの現場で救援活動を行い呼吸器疾患を発症した消防士たちは米国ではまともな治療を受けることができず、キューバに渡って手厚い治療を受けることとなります。両国の消防士同士の交流が深刻な映画での救いとなっています。

 一方、カナダでは医療費は無料であり、この制度を実現した政治家はカナダの歴史上もっとも尊敬されています。病院のキャッシャーという窓口は、医療費支払のためではなく一部の患者に交通費を支給するところだったのです。
 フランスも医療費は無料であり、急病の際には電話でSOSドクターを呼ぶことができます。フランス在住の美帆シボ氏は蕁麻疹、頭痛などでSOSドクターに3回お世話になったとのこと。治療費は後で保険と共済組合から払い戻しされます。医療保険に加入していないフランス在住者はCMU(包括的健康保険給付)という法律で医療を保障されています。シッコを観て連帯と平等の上に成り立っているフランスの医療制度の良さを再認識した美帆氏はと述べています。

 米国政府は「テロとの戦い」に費やされている膨大な戦費を国民の医療保障に振り向けるべきではないかと強く感じました。
 ヒラリー・クリントンはかつて夫が大統領時代に医療保険改革に挑戦しましたが、保険業界の強固な抵抗により挫折した苦い経験があります。もし新大統領に選出された暁には再び改革に取り組むのか、注視したい所です。

 また、日本の今後の医療制度に関して患者負担を増加して民間営利保険会社の市場を拡大することは米国の轍をふみ国民の健康を守りきれなくなることは目に見えています。カナダ、フランスなどの医療保障制度に大いに学ぶべきと感じる映画でした。
posted by スタッフ at 15:42| Dr.青木コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする